あなたは剣道に向いていない、…、(でも)、剣道は私に向いている

武道

面と向かって剣道に向いていないと言われたことは無いが、剣道に向いていないことは自分でもわかっている。

運動神経が良い訳でもないし、勝ち気でも無い。勝負事は勝ち気で負けて泣くくらいの方が上達が早い。

私は優しい両親の元で、おっとりと育った。父から怒られたり、ぶたれたことは一度も無い。一度だけ、何かで父が手を上げたが、逃げて玄関まで飛び降りると、手を打ち下ろすことは無かった。母親はいつもニコニコしていて、誰かに怒っているのを見たことがない。

子供の頃はとっくみあいの遊びもしたが、あくまで遊びだった。喧嘩をしたことは無い。中学生の時に一度だけ、学校帰りに横道へ、チョイ悪に引っ張り込まれて殴られたが、抵抗もせずに居たら、張り合いを無くしたか、3発ほど殴られて終わった。

そのような具合で、そのまま大人になり、社会人になっていたら、厳しい世の中を渡りきれなかったのでは無いか。特にソフトウェアプログラムの開発という仕事は、どんなに注意してもミスで問題が起きたり、納期プレッシャーも強い。社内の上下関係や、他部門調整、客とのやりとりでは、大声を出して怒鳴ったり、机を叩いたりして威嚇する者も居た。

剣道は仮想的にだが、竹刀を刀と思い、命のやりとりをする。大声(気合い)を出し、体当たりもある。寒稽古、暑中稽古で心身も鍛えられる。どんなに強い相手でも、上には上が居て、ビビったり、弱いところを見せてくれる。人間の弱さを知ることになる。その上で、命のやりとりの怖さ、恐怖心を乗り越えるべく、稽古を重ねていく。

剣道に比べれば、仕事で、どんなに脅してこようが、命までは取るまい、と思えば動じること無く、対応ができる。そういう意味で、私などのような不器用でおとなしく、争いごとが苦手な人間は剣道には向いていないかも知れないが、そういう人間にこそ、剣道は向いている。

長く剣道をしていると、それなりの強さも備わる。そんな柔じゃ無いだろう、むしろ逆じゃ無いかと言われることもある。

そんなわけで、少年剣道の指導や審判をしていると、活発に剣道に取り組み、強い子供は親も楽しいだろうが、へたれな子供ほど、『頑張れ、君にこそ剣道は向いている』と応援したくなる。親にも、そういう眼で見て欲しいと思う。仲良く平等と言うだけではなく、打たれ強さ、へこたれない精神も大事だろう。弱い子にこそ剣道は向いている、心が強くなる。

(備考)
・近頃は、レジリエンスというカタカナ言葉がはやってきた。災害や社会的問題、個人の問題など様々なストレスに対して、抵抗力や回復力を表す言葉だ。わかりやすく言えば、打たれ強さ、逆境を生き抜く、粘り強さ、それをどうやって身につけるか、剣道が向いている。
・剣道の良さは高齢になってもできること。竹刀という長さの間があるので、スピードや体力以外の要素で捌くことができる。
・剣道は、ストレス解消にぴったり、大声を出し、汗をかき、叩かれもするが人を打つことができる。高尚なことを言わなくてもメリットがある。
・剣道は、江戸時代に竹刀と防具が発明されて安全に稽古ができるようになり、武士から町人にも広がりました。現代でも、多くの武道やスポーツの中で傷害が少ない方です。偶に、アキレス腱を切ったり、ぎっくり腰や肉離れを起こしますが、…(経験しました)。これから気をつけるのは熱中症ですね。

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