気持ちよい呼吸=正しい呼吸法

坐禅 武道 鍼灸

◎「ゆっくりと息を止めずに、深く『逆腹式呼吸』をする」◎

呼吸は、スポーツや武道だけでなく、生活全般に大きな影響があります。
ここでは、坐禅、剣道、解剖の観点から解説をして、更に秘伝奥義をお伝えします。

(1)坐禅から、「ゆっくり呼吸」

南無の会坐禅会で老師から教わった呼吸方法を紹介します。正しく深い呼吸で、リラックスした思考、発声、行動をできるようになります。

(a)深い呼吸
息を吐ききって、満杯に吸うことを繰り返していきます。すると、のぼせていた頭の血が下がり、心が落ち着きます。これは、呼吸の基本を習得するために行います。

息を吐ききる
①手を下腹に当てたまま吐き出し、②その手を胃袋の所に持っていき更に吐き、③次に胸に持っていって更に究極まで吐きます。

息を満杯に吸う。
①両手を胸に当てて胸が開くように腕を後ろに引くように吸い、②次に胃袋に手を当てて更に吸い、③次に下腹に手を持っていって更に吸います。これで、下腹の内臓が十分前に出て、横隔膜が引き下げられ、肺の底部も引き下げられて息を満杯に吸い込むことができます。

(b)丹田呼吸
上に述べた胸と胃袋の段階を省略して、下腹の呼吸をするのが、坐禅をする時の丹田呼吸法です。なるべく時間をかけてゆっくり静かに行います。
人間の普通の呼吸は1分間に16回ぐらい(3.75秒/1呼吸)だが、静かな丹田呼吸を行うと1分間に3回(20秒/1呼吸)ぐらいになります。

コツは、ゆっくりと静かに長く吐ききったら、下腹の筋肉の反射に任せて吸い込むことです。それには、体の他の部分の力みが抜けた姿勢が大切です。。
初めは意識して呼吸をしても良いが、慣れてくると努力していることを自然と忘れるようになります。この忘れることが大切といいます。

(c)丹田呼吸の効果
深く、静かで、長い呼吸によって、自律神経の調和を得ることができます。息を長く吐くと副交感神経が優位になり、情報伝達物質が分泌されてストレスが軽減されます。これが調心につながり、寂静を全身で実現し味わえます。

(d)坐禅中にこころがけること
私は、無念無想、寂静までは至らないが、深い呼吸と言うことで、吐く時には腹からお尻を抜けて、地球の裏側まで、息を吐ききるような心持ちで吐いています。吸う時は、もちろん鼻から吸うのだが、天から頭を通して、胸・背を通り、下腹に溜まっていくイメージ吸います。そうすると下腹に気が溜まり、頭や肩の力が抜けてリラックスしつつ、充実してきます。

(2)剣道から、「息を止めない呼吸」
古来より研究されて、様々な教えがあります。結論としては、息を止めずに、少しづつゆっくりと吐くことです。

息を吸う時は動けません。それで、息を吸わずにできるだけ長くこらえる、つまり息を止めることを心がけるようになります。
しかし、息詰まる瞬間、息を呑むなど、緊張したり驚いた時には、息を止めることが多いです。このように、息を止めると首肩、体全体に力が入り硬くなります。
若い時に、息を止めて攻めて、こらえきれなくなったら打ったら、師範にそんな子どもみたいな息づかいでどうすると注意されました。息を止めて長くこらえる力を鍛えながら、集中を持続すると考えていた浅はかさです。それでは力が入るし、打ちに出る機会が分かってしまうと言うことです。

剣道は、先に打った方が逆に先に打たれたり、返して打たれたりします。これは、相手に攻められて苦し紛れに打って出たり、誘われて打って出たりした結果です。剣道では、攻め手と守り手と決まっているわけではなく、攻めつつ守りも固め、守りから攻めにそのまま転じる。息をつく隙がありません。

激しい打ち合いなど、動き回る中で息切れしないように持久力を鍛えることも大事ですが、互いに打つ前の攻め合い、竹刀や気の攻防、こうしたピリピリと緊張した状態での呼吸方法が重要です。師範にかかると息が上がるのは、一息で攻めきれずに、息を継ごうという所攻めかけられて、息を吸えないからです。そういう時には、うまく間合いを切って息を吸って、一から攻めなおす工夫が必要です。

100m走のスタートダッシュ、打席のバッター、…、狙いを付けて待っています。この時にも息を止めては瞬間的には反応できません。

できるだけゆっくりと長く息を吐き、ほんの一瞬で吸う、息を吸うときは短く深く吸う。それで、丹田に常に力が満ちているようにします。

(3)解剖生理学から、「深い呼吸」
これは鍼灸の専門学校の授業で習い、感動した記憶があります。
生理学の教えるところでは、人間は普段(安静時)の呼吸は、1回500mlだそうです(1回換気量という)。
ところが、安静吸息の上に、さらに努力して吸い込める最大の吸気量は2~3リットルもあります(予備吸気量という)。
また、安静呼息の上に、さらに努力して吐き出せる呼気料は1リットルあります(予備呼気量という)。両方の予備を足すと、3~4リットルになります。

肺気量

つまり、普段は500ccのペットボトル1本分しか吸ったり吐いたりしていないが、吐ききって、最大に吸うと、3~5リットルになるということです。

解剖学的に呼吸に係わる筋肉を見ると、普段(安静時呼吸)は、吸う時には横隔膜と外肋間筋が収縮して胸郭が広がります。吐く時には、この二つの筋肉が弛緩して(緩んで)胸郭が狭くなります。
意識して呼吸をする時(努力呼吸時)には、吸う時に、横隔膜と外肋間筋に加えて、前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋、胸鎖乳突筋、鎖骨下筋、大胸筋を働かせます。吐く時に、横隔膜などを緩めるだけでなく、内肋間筋、腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋を働かせます。

頭頸部の筋肉胸腹部の筋肉
このように、多くの筋肉を使い、我々は誰でも、「いつもの6倍から10倍呼吸できる」ということです。知は力なりと言います。この科学的な事実を知って、もっと深い呼吸をできると自信を持ちましょう。

(4)奥義として、『逆腹式呼吸』
いわゆる逆腹式呼吸は、腹式呼吸の逆で、吸う時にお腹を引っ込め、吐く時にお腹を膨らませます。しかし、それでは力が入り、リラックスできません。
奥義としての『逆腹式呼吸』は、吐く時に、背中(腰)から下腹(丹田から恥骨)に目がけて吐き、吸う時には、腰から背中そして項(うなじ)頭、鼻で吸います。こうすると、いつも下腹には力がみなぎり、気が充実します。お腹ぽっこりにもなりません。肩の力も抜けて、リラックスできます。
奥義にたどり着いたきっかけは、太極拳の師範から下腹と背中で呼吸する逆腹式呼吸があるとヒントを頂いたことです。試してみたら、非常に具合が良かったです。以前は大きく息を吸って、お腹(胃)がぽっこりと膨らんでいましたが、それが無くなります。

コツは、息を恥骨目がけて下の方へ吐くことです(前に吐くとお腹が膨らみます)。下へ吐くことで、お腹が引っ込みます。吸う時は、その恥骨を底ささえにして、息を鼻から腰背中へと入れていきます。すると、骨盤、腰が横に広がる感じがします。それから更に吸うと、背筋が伸びて行きます(この時に胸も開いて胸式呼吸も合わせて行います)。充分に胸が広がると気持ちが良いです。肩の力が抜けて、肩が降りる(下がる)感じがします。さらに、首から後頭部に息を吸うと首が横に広がり、頭皮が広がる感じがします。ここで、頭の中(副鼻腔)にも充分に息が行き渡るように吸います。こうして充分に息を吸ったら、また、腰から恥骨目がけて息を吐いていきます。すると、一呼吸が120秒(2分)くらいになります。

荘子 大宗師篇に「真人(神人)は踵(きびす)をもって息をする」とあるのも、この辺りの消息を述べたものと考えられます。
リラックスして深い呼吸をするためには、正しく立つ必要があります。正しく立つには、抗重力筋と言われる筋肉群、中でも下腿三頭筋、脊柱起立筋群等などをうまく使う必要があります。呼吸する時にこういう筋肉の動きなどは自分で感じることができます。正しく立つと、重心は踵より少し前に落ちます。(もっと精神的なものもあるでしょうが)、このように、呼吸に動員される「全要素が呼吸をする」ということを「踵をもって息をする」と表現をしたものだと考えると物理的にわかりやすいでしょう。

(5)火の呼吸、とっさの呼吸
奥義としての『逆腹式呼吸』では、深くゆっくりした呼吸で心身がリラックスします。しかし、とっさの行動をするときには向きません。電車で立っていて揺れた、車や人とぶつかりそうになった、武道などで瞬発的に攻防の動作をする時には、激しく短く息を吐くことが必要です。

それには、腰から恥骨目がけて鋭く息をぶつけることです。この息の勢いで、下肢を起動して倒れずに踏ん張ったり、強く前進・後退する。そうすれば、上体は力が入らずに安定したままなので、剣道で言えば起こりを気づかれることも少なく急激な動作ができます。

ヨガでいう「火の呼吸」に近いものです。ヨガでは、腹式呼吸ですが、それを逆腹式で行うところが違います。練習するには、仰向けに寝て両手を下腹に当てて、筋肉の動きで感じて、腰から息を恥骨にぶつける感覚を養います。毎日数分続けて行えば十分です。

◎「ゆっくりと息を止めずに、深く『逆腹式呼吸』をする」◎

「とっさの行動には、鋭く息をぶつける『逆腹式呼吸』をする」◎

—————————-備考——————————————
※※息は氣となり、宇宙につながる
体中に息が満ちて、それが氣として体から外へ発散していく感覚は容易に感じるようになります。
それが、さらに気功、仏教の諸法無我という世界、宇宙につながる感覚にもなっていくと思います(一般的にはついていけない人も居るでしょうから、備考と言うことで、…、興味ある人は研究して下さい)。

※※坐禅は、調身、調息、調心
坐禅をする時は、先ず調身といい姿勢を整えます、次に調息として呼吸を整えます、そして調心として心を整えます。

※※太極拳の呼吸
私の教わっている楊式太極拳85式は武術の性格を強く残していて、中腰でゆっくりした動作で行います。一つの形と形の間に区切りはなく、技の終わりは次の技の始まりであり、どこで息継ぎをするかは特に指導されません。重要なのは、足から腰を経て対の足へと重心移動をするなかで、上体はリラックスしたままで重心の動きに応じて動くことです。手、拳に注意を向けると力むので、肘に注目して上肢を使います。呼吸を指導すると、そこへ気持ちが向くので、普段の指導項目に入っていません。武道における呼吸の重要性は、師範も承知で、あるとき、ぽつりと上のようなことをおっしゃいました。太極拳の呼吸は自得ということです。

※※剣道の下腹
剣道をする時は下帯をして袴をはき、さらに垂れをつけるので、下腹は固く締められて自由には動きません。それで、腹式で息を大きく吸おうとするとどうしても、お腹(上腹部=胃)がぽこっと出てしまいます(そうならないように工夫して居る人も多いと思いますが)。その状態で、吐くとお腹だけでなく、下腹も少し引っ込むので、気の充実が失せがちです。逆腹式がいいのです。

※※丹田呼吸は下腹に力を入れるのではない
下腹に力を入れれば、みぞおちにも力が入ります。これでリラックスできません。合気道の植芝盛平は、下腹はこころをしずめるところであって、力を入れるところではないと言っています。剣道でも、丹田に力が満ちると言い、力を入れるとは言っていません。力を入れずに、丹田を充実させるには、上に言う『逆腹式呼吸』が最適だと思います。

※※胸式呼吸
呼吸を論じる時に悪者のように言われがちですが、深く大きく吸うには胸式呼吸も重要です。最近は、パソコン作業などうつむくことが多くて、脇(側胸部)、鎖骨下など呼吸に関係する胸部の筋肉が硬い人が多いです。その為に胸が充分に広がらずに、呼吸が浅く、首肩凝りもひどくなりがちです。鍼で緩めて、胸を開いて深呼吸ができると気持ちも良くなります。それに、ここで言う呼吸法を身につけるともっと心身共に楽になります。

※※横隔膜も筋肉
膜という名前がついていますが、筋肉です。緩んだ状態では鍋ぶたのように凸状になっていて、力が入る(収縮する)と平たくなり、胸郭を広げます。呼吸は物理的には、胸郭が広がって肺が拡張して外気を取り込み、胸郭が狭まって肺が縮んで肺内の空気を外に出します。

※※腰から背中の方に息を入れるというのは、解剖学的にも説明可能
 東邦大学名誉教授で脳生理学者の有田秀穂先生が、「脳を活性化する武道とセロトニン」という著書で次のように述べています。
 丹田呼吸法では、吸気時に背中側の横隔膜を動かして、背中側に息を入れる。解剖学的に、横隔膜を動かす横隔神経は前(腹)側を動かす第三頸随と後(背)側を動かす第五頸随とに分布しているので、意識的に前方の横隔膜を動かさずに、後方の横隔膜を動かすように訓練できる。

※※ヨガの「火の呼吸」
1分間に約200回という速度で、1~5分間持続して腹式呼吸を行なう呼吸法です。
両鼻から深く息を吸い、お腹を膨らませ、次に、お腹を背骨の方に勢いよく引き込むようにへこませて、両鼻から息を吐く。この吸気と呼気の間隔を途切れさせず断続的に行います。

※※スタンフォード大学スポーツ選手向け「IAP呼吸法」
NHKあさイチ(2019/07/23)に「逆腹式呼吸」と同様のことが紹介された。
息を吸ったり吐いたりするときにおなかをふくらませたまま行うことで、おなかの中の圧力が高まり、体のゆがみが補正されるため疲れにくく、選手の腰痛が減り、パフォーマンスも向上したという。

※※図の引用元
東洋療法学校協会 編「解剖学 第2版」医師薬出版株式会社 2008,p.216,p297
東洋療法学校協会 編「生理学 第2版」医師薬出版株式会社 2008,p.59

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